連載:滴水洞 015

文革総括における日本文化大革命という立場と観点



2006年09月18日14:22

前 田 年 昭

編集者

文化大革命の理念,原点の基本について014で述べたが,その後明らかになった悲惨な暴力をどう思うのかと問う読者もおられよう(すでに暴力論1~6やむほんの権原(正・続)でいくつかの事柄については述べてきた)。私はこれまでも意識的にいわゆる右派言論と向きあうことによって自らの思想形成をしてきた。それは中学のときの産経新聞,とりわけ柴田穂氏の文革報道を反面教材として読み込むことが出発であったから,その後の内戦ともいうべき暴力的衝突の報道に接しても,また80年代の傷痕文学を読んでも,文革支持は揺るがなかったのである。

それは今,振りかえってみると,自らが身を置いた全共闘運動を日本文化大革命ととらえる立場と観点に支えられていたからだと思える。日本文化大革命という言葉は,津村喬さんが使いだしたものだったが,当時の私にはとてもぴったりと受け入れられた。級友たちとつくったサークル,現代史研究会で出したガリ版のサークル誌『現代史研究』No.1(1970年5月)の編集後記には「〈4・13テーゼ〉現代史研究会運動は偉大な日本文化大革命の灘高における一形態である。」と記している。

文化大革命を没理念的な権力闘争としてみるのではなく,新たな社会主義の実験としての意義を捉えなおそうという立場において,共感をもって私も受け止めた加々美光行さんの文革研究はどうなったか。彼は,1980年には血統主義をめぐる対立に焦点をあてて,紅衛兵資料の紹介と分析を行ない(私はここから多くを学んだ!),「仮説提起」にいたった。

【その仮説とは第一に,文革期の造反有理,四大民主(……)が一面では秩序破壊の混沌(カオス)を生むマイナスをともないつつ,反面,党独裁の強固な権力ヒエラルヒーに対する民衆の異議申し立てを正当化する「民主」の基盤を,社会主義体制下の中国に初めて生み出したということ。第二に,それゆえに一九七六年四月五日に起きた第一次天安門事件と一九七八年秋から七九年春にかけて起きた「西単の壁」「北京の春」の民主化運動は,いずれも文革の洗礼を受けた元紅衛兵を主体とした中華人民共和国史上初めての市民の自発性に基づく本格的民主化運動となったこと。この二点から文革は中国社会主義の政治民主化にとって,決して無益なものではなかったという点を仮説として提起したのである。】『歴史のなかの中国文化大革命』岩波現代文庫pp.8-9

この見方,考え方には私は反対である。天安門事件以降現在にいたる民主化運動は,反文革であり,反社会主義ではないのか。思想的リーダーである「元紅衛兵」の思想は新自由主義であり,欧米式「近代化」の道をもソ連型「社会主義」の道をも否定しようとした文化大革命の理念はそこにはない。中国の現在の現実が事実をもって証明しているとおりである。

全面否定や権力闘争アプローチと闘おうとした文革研究の動機と志において積極的だった加々美さんが,どうして対極的な見方,考え方にいたったのだろうか。繰り返し繰り返し彼の研究を読み返した私は,「加々美さんの変質」について,ひとつの以下の仮説として考えるにいたった。

加々美さんは出身血統主義を批判した遇羅克の思想と闘いを掘り起こしながらも,出身血統主義を特殊中国的な事情に起因するとしたのである。すなわち,[木へんに當]案材料(個々人にちて出身階級や階級区分などを記した身上調書)制度の問題を指摘した。私は,反権力運動における〈むほんの権原〉をめぐる出世主義や競争心の問題として,中国のみならず日本の反権力運動が抱えている問題と共通のものとして,これを批判しなければならないという立場なのである。

文化大革命を特殊中国的な事件としてみるかぎり,それらは結局,アジア的「野蛮」や東洋的「専制」を指摘する,さまざまなオリエンタリズムに帰着する。何のことはない,ファノンが批判した「黒い白人」ならぬ「黄色い白人」の思想であり,中国やアジアに対する蔑視以外の何ものでもない。

【これについては,当時私は,「ひどいわ,ひどいわ主義」批判として,数年にわたって,闘争-批判をやろうとした。
●「団結の哲学をうちたてよう 「ひどいわ,ひどいわ」主義に反対する」
 http://www.linelabo.com/hidoiwa.htm
●「団結の哲学をうちたてよう 続・「ひどいわ,ひどいわ」主義に反対する」
 http://www.linelabo.com/hidoiwa2.htm

40年をへた現在も,中国における「出身階級決定論」と通じるものとして日本の「ひどいわ,ひどいわ主義」は,依然として,闘争-批判-改革の対象である。】滴水洞002

(おわり)


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