ネオリベラリズムはリベラリズムで批判できない


「『JUNKの進撃、市民の敗走−壊滅せる大学の廃墟から』早稲田大学ビラ撒き逮捕と法学部C君処分の意味を考え、告発する抗議集会」における会場からの発言


2006年4月23日

前 田 年 昭
編集者

前田と申します。闘う皆さんに心からの支持と共闘のエールをおくります。
「特殊」で語ることの危うさ さきほどからの討議の一部で,早稲田は特殊な事情があるとか法政にはまた別な条件があるとか訳知りな解説が語られ,また,学生の状況についても一文(第一文学部)はダメで二文(第二文学部)は……といった事情が語られています。これは危うい討議方向ではないかと思うのです。
 なぜ危ういか。それは、個人的な場では「支持」をおしゃべりしても現場での行動を共にするわけでもなく,署名すらしない,つまり自らの立場を社会的に明らかにしない,そういう人たちが語る「特殊な事情」の容認へと思想的に連なっていくからです。いわく,私には生活がある,私のクラスには事情がある――だから,署名できない事情を分かってほしい,ということになっていってしまう。また,早稲田のことは早稲田「外部」の者には分からないし,かかわってはいけないという屁理屈――その典型が今回「学外者」を口実に連行,軟禁し,逮捕させた文学部教員であり,第二文学部教務担当教務主任だ――に屈することになってしまわないでしょうか。学外者は出て行けというような大学,非国民は出て行けというような国家,これらは私たちの生きる権利,学ぶ権利の敵対物です。
 日本の社会運動の一部にはいま,その企業の労働組合に籍をおかないものが「労働運動」で共闘することを拒んだり,その大学の学生でないものが「学生運動」を支援することに反発したりという傾向があります。このような偏狭さは,権力による排外と分断を助けるものでしかありません。

〈乱暴者による暴力的な行為〉を保障する空間としての大学 文学や演劇,もっと広く学問,とりわけ人文科学や表現行為の「危機」としての論議もありました。真理はつねに少数の者による行為として発見されてきたし,「常識」や「定説」を疑いうるとする批判のなかから生まれてきました。つまり学問や表現は,本来的に時の国家権力に対して批判的な,言ってよければ〈乱暴者による暴力的な行為〉だと私は思うのです。詩と思想の本質はディクターレであるとマルティン・ハイデガー(1889-1976)も述べています。大学とは,これを保障する組織,空間として存在します。
 ドイツのハイデルベルクという伝統ある都市はまたハイデルベルク大学の街でもあるわけですが,ここに20世紀初めまで数百年にわたって学生牢というものがありました。自由意志によって学生組合に加入している学生は,国家の法律に反することがあっても,警察官は逮捕することはできず,国家の裁判に服する必要もないのです。大学のなかで刑に服していたのです。学生が自分が学生組合に属していることを告げれば,警官は交番にもどって報告書に書くだけだったと,マーク・トウェイン(1835-1910)は体験記「ヨーロッパ徒歩の旅」に記しています。
 つまり,大学の自治とはこのような《二重権力》として培われてきたわけです。真理をめざす批判的な行為,学問や表現の自由はこのように具体的に国家権力と対峙する権力を持つことによって保障されるのであり,ここに大学の社会的存在意義と社会的責任があります。国家の狗を自ら引き入れるなど言語道断、そのような輩は大学の教職員ではありえません。

間口を広げるという姿勢の危うさ 闘いと運動を拡大していくための議論の一部で,SNS(ソーシャルネットワーキングサイト)やブログなどのインターネットの活用を「効率」のよさとして推す意見がありましたが,私はこれは賛成できません。なぜなら,判断の基準を「効率」の良し悪しに求める考え方こそ新自由主義にほかならないと思うからです。
 さらに言わせてもらえば,腰をかがめて間口を広くすることによって闘う人びとを増やそうという考え方には大衆蔑視の臭いがします。人が自らの意思によって闘いに立ち上がるという崇高な決意は,誰かからの指図や強制によってなされるものではありません。崇高であるが故に,敷居は高く,間口は狭いものなのです。自らの闘いは自らの瞳のように大切にしたいものです。デモをパレードと呼びかえれば参加者が増えるというような,あるいは現場に来なくてもネットでサインすればよしとするような,姑息で,下卑た,さもしい考え方を克服しないかぎり,日本の反権力運動は“身体のない亡霊”のような状態から脱皮できないのではないでしょうか。
 ともにがんばりましょう。

2006.5.17五訂  (おわり)


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前田年昭 MAEDA Toshiaki
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