繙蟠録 I & II
 

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繙 蟠 録 II 2014年1-2月

2014/02/22 組継ぎ本の表紙 フランス装と和装の融合をコハゼ留めで

大雪の翌15日に東京・森下で行われたもじもじカフェ番外編「書物の構造と『組継ぎ本』実習」は終始アットホームな雰囲気のなかで行われた。遠方からの参加者も交え,寄せられた意欲的な作品の展示と併せて,実習と交流を深めることができた。場を用意してくださったもじもじカフェ事務局に改めて感謝を表します。

さて,当日は時間の関係で十分に説明できなかった表紙のひとつのプランを説明しておきたい。これは開会直前,組継ぎ本インストラクターの大倉壽子さんと直井薫子さんおふたりに私のフランス装と和装との融合のサンプルをお見せして討議と助言をいただいてまとめなおしたものである。

 表1と表4,たとえばA5判仕上げ28ページものの場合「1 6」と「23 28」だけA3判(短辺297mm,長辺420mm-80mm切り捨て)を使い,「1」「28」は縦297mm横191mm(+あそび0.5mm),「6」と「23」は縦210mm横148.5mmの変形として,切れ込みは「6」「23」を規準に両端切れ込みのAタイプにします。「1」「28」はフランス装のように角を内側に,次に小口と天地を折り込みます(写真1,2)。

 外から2枚目,この例なら「3 10」と「19 26」に色の違う紙を使います(Bタイプ)。ふつうに組み継いだ後,3-4ページの色紙を1-2ページと5-6ページ(実は同じ1枚)で包みます(写真3)。6ページの角を5ページ側に折り込み(写真4),足袋のコハゼのようにしてフランス装の角の切り込みに留めます(写真5,6),角だけ色紙をちらっと見せるのです。これだと表紙,裏表紙はそれぞれ3枚重ねで,しかも依然としてノリもホチキスも使っていません。以下,写真をご参照ください。

     

 (M)

2014/01/18 【餓死する人を出さない社会】

前回につづいてブレイディみかこさんの「THE BRADY BLOG」1月16日付を紹介したい。あまりに共感したので,これまでしなかったことだが全文の引用と紹介をもって私の共感表明としたい。

【エレキングの連載を書いた後で、日本のニュースサイトを見てたら「なぜ日本では餓死者が出るのか」ということが話題になっていて、こりゃもはや祖国のほうがUKよりよっぽどアナキーじゃんと思った。

底辺託児所で働いていた頃は、生活保護や失業保険で生きている人たちの子供を預かる施設で働いていたわけだから、当然多くの人々に、「日本では、無職者への福祉はどうなっているのか」と質問された。で、わたしがいつも答えていたのは、「日本では働かない人は死ぬしかない。そういう社会です」だった。
が、メタファーだった筈のその言葉が、リアリティーになる日が来ようとは思ってなかった。

映像を配給する仕事の人や関係者。がもし読んでおられたら、ケン・ローチの『The Spirit of '45』を日本公開していただきたい。作品の出来・不出来は別にして、これはいま日本人が見るべき映像だ。というか、目からウロコだと思う。

もう一度、リンクを貼る。
http://www.ele-king.net/columns/regulars/anarchism_in_the_uk/003559/

日本人は国際的評価を異様なほど気にする民族だが、英国人から見れば、日本国民が「社蓄」とかであることよりも、平気で餓死者を出す社会であることのほうが、「ひゃー、何それ(Fucking hell!)」な世界びっくりニュースだ。

ケン・ローチは、レフト・ユニティーという政党を設立した理由について、「ヒューマニティーの揺れ戻しが必要な時代だからだ。これほどキャピタリズムに傾いている社会には、ゴリゴリの極左政党が必要だ」と語っているが、日本のほうがよっぽどそれを必要としているように思う。】 (M)

★The Spirit of '45 Trailer(YouTube)
 
 The Spirit of '45 (L'Esprit de 45) - Clip 1 [HD](YouTube)
 The Spirit of '45 (L'Esprit de 45) - Clip 2 [HD](YouTube)
 The Spirit of '45: Ken Loach Interview [HD](YouTube)

2014/01/16 日本にもレフト・ユニティを!

ブレイディみかこ「キャピタリズムと鐘の音」(アナキズム・イン・ザ・UK 第15回 2014.1.14)を読む。「マニフェストとしての『The Angel's Share』」(THE BRADY BLOG 2013.12.30)とあわせて。昨年11月,ケン・ローチは「もう長い間、ワーキング・クラスを代表する政党は英国には存在しない。英国には、中庸的政策を拒否し、庶民の生活を向上させる政党が必要である」として新左翼政党レフト・ユニティを発足させた。

 たしか以前にも紹介したが,筆者は“腸感”でイギリスの現実を捉えている。と同時にまた,凡百のルポルタージュなどには描きだすことのできないほど的確に日本社会のいまを描きだしている。

UKの公営住宅地は、現代では暴力と犯罪の代名詞になっているが、もともとは1945年に政権を握った労働党が建設した貧民のための住宅地だ。あるスラム出身の老人は、死ぬまで財布の中に「あなたに公営住宅をオファーします」という地方自治体からの手紙を入れてお守り代わりにしていたという。浴室やトイレがある清潔な家に住めるようになったということは、彼らにとっては一生お守りにしたくなるほどの福音だったのだ。
 1930年代には無職だったスラム住民も、鉄道、炭坑、製鉄業などの国営化によって仕事をゲットし、戦時中に兵士として戦った勢いで働いた。
 「ワーキング・クラスの人間は強欲ではないんです。各人が仕事に就けて、清潔な家に住めて、年に2回旅行ができればそれ以上は望まないんです」
と、ある北部の女性が『The Spirit of 45』で語っている。
 キャピタリズムが「それ以上」を望む人間たちが動かす社会だとすれば、ソーシャリズムとは「それ以下」に落ちている人間たちを引き上げる社会なのだ。

そうなのだ。日本の私たちもまた,高い家賃に苦しめられ,毎月末の支払いに四苦八苦し,国民皆保険などとっくに崩壊してしまったいま,病気になってもガマンガマンの日々を送らざるをえなくなっている。日本社会はいま確実にイギリスと同じ道に向かっており,貧乏人もまたイギリス同様に〈レフト・ユニティ〉を切実に求めているのである。(M)

2014/01/13 もじもじカフェで組継ぎ本実習(ご案内)

もじもじカフェ番外編「書物の構造と『組継ぎ本』実習」

【開催概要】

  • 日時 2014年2月15日(土) 14:00〜16:30(13:30開場)
  • 会場 芭蕉記念館 研修室(東京・森下)
  • 講師 大倉壽子さん,直井薫子さん,前田年昭
  • 参加費 1000円
  • 定員 36 名

【内容】

組継ぎ本とはステープラ(ホチキス)もノリも糸もセロテープも使わずに本をこしらえる方法です。

いまの製本でもっとも多い無線綴じではノドが十分に開かないため、コピーでは真ん中が真っ黒になってしまい、コピー機に無理に押し付けると本の背を痛めてしまいます。開きのよい糸かがりは辞書など以外ではあまり使われず衰退気味なのが残念です。製本会社は近年、製本ノリの改良による広開本の開発に力を注いでいますが、背をミーリングで削り、ノリで固めるという方法自体はそのままです。

背中を固めて立てる西洋式に対して、寝かせて保存する和装本は背を糸で綴じ、和紙の力にも助けられて軽くしなやかで長持ちするものでした。その東洋型と西洋型の歴史的経験の蓄積と融合から編み出したのが組継ぎ本です。

組継ぎ本は、素材の紙だけで構成する“用の美”であり、ノドにかかる荷重を折り紙と切り紙による分散で支えるものです。今回は、東西の製本の歴史をふりかえって実物を解体しながら書物の構造を知るとともに、実際にそれぞれ28ページの組継ぎ本をこしらえてみる実習をみなさんと体験したいと考えています。〔中略〕(前田年昭)

【持参するもの】

  • 定規(30cm)
  • カッターナイフ(「折る刃」タイプのもの)
  • カットマット(または代わりになるボール紙)
〔後略〕
2014/01/09 組継ぎ本実技動画をYouTubeにアップロード

さきほど3本の動画(mp4)をアップロードしました。

実演(組継ぎ本インストラクター):大倉壽子(II&III) 直井薫子(I)
監修・字幕:前田年昭 協力(組継ぎ本師範):宮地知
撮影:2013.10.19吉祥寺/イカ焼きTATSU家

2014/01/04 あるアルチザンの対話に学ぶ

地デジ移行を機にテレビ生活をやめた私だったが,この1月1日に見たNHK・EテレのSWITCHインタビュー 達人達(たち)・選「佐渡裕×羽生善治」は,第一級の職人,アルチザン同士の対話として知的な示唆と刺激に満ちていた。40歳をこえ勝負の中に自分らしい美しい将棋を求めるようになったという棋士・羽生善治と,自らを芸術家ではなく一人の職人と考える世界的指揮者・佐渡裕の対話である。

 何十手何百手もの定跡(定石)の積み重ねのうえの一つの発見を新たな定跡として付け加えるとの羽生の指摘は,まるで組版と同じではないかと深く頷かされた。“定石を覚えて二子(もく)弱くなり”という言葉もあるがこれも同様,なぜそこで改行するのかと考える力を身につけることなく,禁則処理のあれこれやアプリケーションのアケ量設定ダイアログについて覚え込んでもダメなこととまったく同じである。

 ひとりが一生のうちに残せる組版の数はたかが知れている。目先の勝負以上に美しい棋譜を残そうとした先人たちのことを語る羽生の目は,棋譜のなかに歴史的経験を読み取ろうとする目だ。私たちは,自分がやった組版のさまざま,とくに失敗から学ぶことと同じように,他の人がやった組版からも学ぶことができる。組版という棋譜のなかには,未熟な道具の痕跡も見いだせるし,その道具に使われるのではなく道具を使いこなした熟達のワザも読み取ることができる。新年早々,いい対話をきくことができて楽しい。

 惚れたら一途の私はさっそく羽生善治の本を読んだ(『捨てる力』2013 PHP文庫,『直感力』2012 PHP新書)。面白い。ここには実践に裏打ちされた知恵がある。たとえば,集中力を高めるためには何も考えない「空白」の時間を意識的につくることだという。なるほどと思う。日常のあれこれに追われ,「情報の海」に溺れていると,結局のところ何ひとつ集中して考えることのできないドレイになってしまうからだ。自戒を込めて。(M)


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