前田年昭のブログ 更新情報(直近分もくじ)
- 2025/01/13 映画『シュシュシュの娘』(入江悠監督)に惚れた
『シュシュシュの娘』は2021年の日本映画(配信はAmazonプライム,U-NEXTほか,→予告編)。映画という表現の力を見せつけられた思いである。
2023~24年,関東大震災での朝鮮人虐殺を扱った報道から映画まで量的にはかなり出され,宗主国日本の加害の歴史の啓蒙,啓発にはおおいに力になったとは思う。しかし,私の気持ちのなかにはすっきりしないものがずっと残っていた。「権力のデマにおどらされた」といっても,はたして八百屋や魚屋のおじさんたちが見ず知らずの人間を殺すことができるものなのか(歴史学で真正面からこの問いに取り組んだのが愼蒼宇『朝鮮植民地戦争』だ)。話題になった某映画をはじめ,読む者,観る者にとっては,どこまでも現在ではなく過去のこと,他人事なのである。そうした作品を作っている者は,自分はそんな馬鹿な残虐なことはしないよと高みから眺めているように私には思え,蟠(わだかま)りはずっと解消しなかった。権力のデマにおどらされたという見方,考え方は愚民思想,大衆蔑視であり,その見方,考え方では民衆は再び三たび「おどらされ」てしまうことはほぼ間違いない。事実,朝鮮学校の高校無償化からの排除が「民意」であるかの現実は何ひとつ変わっていないではないか。映画では,「仕事はそこそこで、息をひそめるように生きている」鴉丸未宇(からすま・みう,市役所勤務,25歳)は「みんなやってんの、国も県も。市役所だけが公文書の改ざんダメって理由ないでしょ」という集団的同調圧力のなかで独りぼっち。同じ役所の先輩・間野幸次が外国人移民排除条例制定をめぐる理不尽な「文書改ざん」を命じられた末,市役所屋上から飛び降り自殺し,「その日,私は変わった」。祖父・吾郎の「仇をとるため、改ざん指示のデータを奪え」という言葉に従って,未宇は立ち上がる。……武器は「普段から目立たないこと」という設定はとてもいいが,「もし君の呼び声に 誰も答えなくとも ひとりで進め」というのはあまりに厳しい,がこれが日本の現実だ。外国人移民排除に反対し共に生きていこうと志す産廃業のおじさんは袋叩きにあい,市役所の公務員たちはみんなで明るく市長を祝賀する。赤木俊夫さんを独りにしてしまったのは同僚であり,二人目,三人目は出てこなかったではないか。「公文書改ざん」「外国人移民排斥」から「さくらを見る会」まで笑えぬ笑いは観る者の心を刺す。お前は二人目,三人目になれるのか,と。
ここに現実を描き現実と格闘する表現の力がある。ぜひ見てほしい。 (M)
- 2025/01/12 中野敏男『継続する植民地主義の思想史』学習ノート(2)
学習ノートと改題し,中野敏男『継続する植民地主義の思想史』を読みつづけたい。
「七章での,日本共産党が戦後,植民地主義との闘いから後退していった経緯」を著者は,『前衛』創刊号(1946.2)掲載の金斗鎔「日本における朝鮮人問題」の検討から始めている。
金斗鎔は,「朝鮮の完全な独立,人民共和国建設」を「「天皇制打倒」に結びつけること」を主張し,「「天皇制打倒」の問題に対し多くのわれわれの同志たちは…非常に消極的であり,場合によっては民族統一戦線の名によつて,或は反対する排外的民族主義民族主義勢力のわれわれに対する脅迫にあつて,この中心的スローガンを一時なりとも背後に押しやるがごとき傾向を示してきた」と批判している。そして「天皇制を打倒しなければ,われわれ自身の解放があり得ないこと,そのために日本の人民解放闘争に参加するやう一切の機会を捉へなければならない」として,日朝共同闘争の端緒を開く実例として「常磐炭礦のストライキの時,その闘争によつて獲得した食糧の一部分を日本人労働者に分け与へたことが,日本人労働者によつて朝鮮人労働者に対して非常な好感を抱かせ,また非常な好評を博した事実」を挙げている。基本主張は,「一切の民族的偏見乃至政治的無定見に対して,当面もつとも闘争の鉾先を向けねばならない」「かゝる民族的偏見に対する闘争はわれわれにとつても,また日本人側からも双方から行はるべき性質のものであることは今更言ふまでもない。」というところにあった。
この国際主義の立場は,日朝党員の一致した党としての見解であった。1945年12月1日,第4回党大会が採択した行動綱領の全25項の冒頭2項で明らかにしている。- 一,天皇制の打倒,人民共和政府の樹立。
二,ポツダム宣言の厳正実施,民主主義諸国の平和政策支持。朝鮮の完全なる独立。労働組合の国際的提携。
ときは,阪神教育闘争の2年半前であった。 (つづく)
(M)- 一,天皇制の打倒,人民共和政府の樹立。
- 2025/01/09 中野敏男『継続する植民地主義の思想史』を読もう(1)
中野敏男『継続する植民地主義の思想史』(青土社,2024年12月)は,「戦後」様態を変えて継続する日本の植民地主義に真正面から取り組み,「植民地主義の継続がどのような思想によって支えられてきたのか」(序章)を明らかにすることによって,植民地主義と闘って国際主義をめざすための闘いの手がかりを読者に与えてくれる。
目次を紹介すると―――- 序章 継続する植民地主義を問題とする視角
第一部 植民地主義の総力戦体制と合理性/主体性――合理主義と主体形成の隘路
第一章 植民地主義の変容と合理主義の行方――合理主義に拠る参与と抵抗の罠
第二章 植民地帝国の総力戦体制と主体性希求の隘路――三木清の弁証法と主体
第二部 詩人たちの戦時翼賛と戦後詩への継続
第三章 近代的主体への欲望と『暗愚な戦争』という記憶――高村光太郎の道程
第四章 戦後文化運動・サークル詩運動に継続する戦時体験――近藤東のモダニズム
第三部 「戦後言論」の生成と植民地主義の継続――岐路を精査する
第五章 戦後言説空間の生成と封印される植民地支配の記憶
第六章 戦後経済政策思想の合理主義と複合化する植民地主義
第四部 戦後革命の挫折/「アジア」への視座の罠
第七章 自閉していく戦後革命路線と植民地主義の忘却
第八章 「方法としてのアジア」の陥穽/主体を割るという対抗
第五部 植民地主義を超克する道への模索
第九章 植民地主義を超克する民衆の出逢いを求めて
結章
もっとも深く共感,同意したのは,「第七章 自閉していく戦後革命路線と植民地主義の忘却」である。すべての章(とくに第五章)で,「戦後」が戦前戦中から連続するなかで,加害の封印と被害の再覚醒として植民地主義が継続・再編されたと重要な指摘がされているが,七章での,日本共産党が戦後,植民地主義との闘いから後退していった経緯の検証には強く頷かされた。著者は,金斗鎔の国際主義を当時の歴史的条件を内在的に考察して再評価し,日本共産党の後退を宗主国共産主義者の誤りとして捉えている。野坂参三帰国から51年綱領,六全協への経緯のなかで天皇制打倒が後景においやられていく経緯の記述は,類書にない説得力があり,これは「継続する植民地主義」と対峙する著者の立場,歴史観の確かさによるもの以外ではない。
著者のこの指摘から私はレーニンによる社会排外主義批判を想起した。当時の日本共産党は「プロレタリアートが小ブルジョア的人民から「孤立する」という恐怖」から「全国民的革命」という誤り(愛される共産党!)に陥ったのではなかったか。レーニンは,「大衆」を引合いに出」すことによって「われわれは大衆や大衆組織から切りはなされたくはない,と」の詭弁を弄するカウツキーを批判した(『全国民的革命の問題について』1907)。レーニンはまた,帝国主義は超過利潤によって労働者の上層を買収するので「資本主義のもとでプロレタリアの大多数を組織に加入させうると,本気で考えることはできない」と断じ,「われわれがひきつづき社会主義者でありたければ.もっと下層に,もっと深く,真の大衆のところにはいっていくこと」と訴えた(『帝国主義と社会主義の分裂』1916)。 (つづく)
(M)- 序章 継続する植民地主義を問題とする視角
- 2025/01/08 阪神教育闘争・朝鮮学校弾圧と天皇制
1948年4月の阪神教育闘争は,日朝共同闘争の歴史的に意義深い闘いである。アメリカ占領軍による非常事態宣言という弾圧は,在日朝鮮人の生きる権利・学ぶ権利に対する弾圧であり,戦後日本の管理教育(=継続する植民地主義教育)の出発点でもあった。
原武史『象徴天皇の実像 「昭和天皇拝謁記」を読む』(岩波新書,2024年10月)から天皇ヒロヒトの証言をひろっておく。ここには,アメリカ帝国主義とその目下の同盟者である日本独占資本の朝鮮観が露骨にあらわされている。- 朝鮮人の学校の問題など、私の仮装行列とかいふ事件はもつと世の中にパツトなつた方がいゝ位だとの仰せ。(中略)あゝいふ学校はつぶした方がいゝ。大体国費を使つて赤の学生を養成する結果となるやうな大学もどうかと思ふが、こんな朝鮮の学校に国帑を費す事はどうかと思ふ(一九五三年一一月二四日) (同書pp.54-55,強調は引用者)
「昭和天皇拝謁記」には随所に色濃い反共思想と,侵略戦争による朝鮮中国アジア人民に対する加害に対する居直りが露骨に表明されている。日本の左翼運動が天皇制打倒のスローガンを降ろしていった過程はまた,「継続する植民地主義」に屈して,日朝連帯の旗を降ろしていく歴史でもあった。 (M)
- 2025/01/06 中岡哲郎さんの一周忌に際して
1月6日は,技術史研究者・中岡哲郎さんの一周忌である。中岡さんは,生きた思想としての毛沢東主義者であり,技術と人間について考えて続けてきた私の先生であった。
『人間と労働の未来』 『技術と人間の哲学のために』から技術は誰のため何のためという立場が決するものだと学び,『もののみえてくる過程』から感性的認識を出発とするマルクス主義認識論を教わった。『技術の論理・人間の立場』からは,日本の左翼運動の弱点である組織論を学んだ。また,『日本近代技術の形成』 『近代技術の日本的展開』にまとめられた日本の労働者・技術者の革命的伝統から励まされた。
肉体労働における産業革命に比すべき精神労働における産業革命としての「IT革命」について,労働者の団結をつくる土台としての共同性を見いだす困難はいかに打破すべきか,ぜひ直接うかがいたいと思ってお手紙を出したが,すでに中岡さんは病床に伏しておられ直接教えを乞うことができなかった(百合さんからお返事をいただいた)。かえすがえすも残念で悔しいことだった。 (M)
- 2024/12/25 全琫準(チョン・ボンジュン)闘争団に生きる革命伝統
韓国の大統領尹錫悦の逮捕・拘束を求める闘いで,12月21日,全国農民会総連盟「全琫準(チョン・ボンジュン)闘争団」のトラクター上京デモは,警察の阻止線を突破して大統領官邸に向かった。
◯12.2328時間かけて市民が突破した警察の車壁…トラクターデモ隊,大統領官邸へ=韓国ハンギョレ新聞(写真あり)
◯12.23「トラクターデモの女たち,欧州なら頭に銃弾の穴が開いた」韓国警察が書き込んで俎上に中央日報併せて,8年前の全琫準闘争団のトラクターデモの記録をあげておく。
◯2016.11.25進撃のトラクター「これから朴槿恵掘り返しに行く」ハンギョレ
◯2016.11.26耳を塞いだ大統領府目がけて人間の鎖が行進,また行進ハンギョレ「全琫準闘争団」は,日本でいえば「井上伝蔵闘争団」となろうか。日本の労働運動と左翼運動に欠けているものは,闘いの伝統への誇りと歴史意識ではないだろうか。社会がブルジョアジーとプロレタリアートとの二つに分裂・対立してから,いつでもどこででも,独立を求める国家,解放を求める民族,革命を求める人民の革命伝統は営々と引き継がれてきた。先人の闘いあってこそ現在のわれわれの闘いがある。なのに,日本の「新しい」と称する左翼は,この歴史をリセット(=消去)し,歴史は自分たちから始まると宣言してあたかも更地に家を建てるように別党派をこしらえ,結果,自ら歴史によって消されてきた。この誤りをもう繰り返してはならない。民衆の底流に生き続けている革命伝統を掘り起こし,再生することが必要である。
- 人民の戦いは政治的,経済的,軍事的(暴力的)敗北によっては,まだ真の敗北とはならない。 人民の戦いの真の敗北とは,人民が戦ったこと自体に対して自負と正当性の信頼を失った時,すなわち,倫理的,思想的に敗北した時,真の決定的敗北となるのである。〔色川大吉『自由民権の地下水』岩波書店,1990年,p.110〕
国家は独立を求め,民族は解放を求め,人民は革命を求める。闘いの歴史と伝統を掘り起こし,再興しよう! (M)
- 2024/12/20 ソウル大学校国史学科大学院研究会の声明
あなたを歴史に記録するだろう
去る3日夜,
ユン・ソンニョルが危険で反民主的な戒厳令を宣布した。
イ・スンマンがヨス・スンチョンで法的根拠もない戒厳令を発動してから76年になる。
チェチュの山間の村に火を放ち始めてから76年になる。
プサンでクレーンによって国会議員を連行してから72年になる。
独裁に抵抗した4月革命の中で戒厳令が宣布されてから64年になる。
パク・チョンヒが軍事クーデターを起し戒厳令を宣布してから63年になる。
韓日会談反対示威を弾圧するために戒厳令を発動してから60年になる。
維新長期独裁を画策して戒厳令を宣布してから52年になる。
《内乱首魁》がクァンジュで市民を虐殺してから44年になる。
我々は半世紀ぶりに歴史の退行を目撃する。ユン・ソンニョルは反国家勢力,従北勢力を斥けて自由民主主義を守護するという。しかし我々は知っている。韓国現代史において従北と赤色を掲げて国民を虐殺した者が誰なのかを。民主主義を語らって社会混乱を助長し虚偽煽動をこととする者が誰なのかを。まさに今民主主義を抹殺する真の反国家勢力は誰なのか歴史はその答えを知らせてくれている。
我々は銃を担いで国会に攻め込んでいった戒厳軍と国会を封鎖した武装警察を記憶する。寒風を受けながら国会に駆け込んだ市民を記憶する。我々は非武装状態の市民に銃口を向けた軍人と素っ裸で立ち向かった市民を記憶する。我々は戒厳令を阻止するために塀を越えた国会議員と卑怯にも後ろに隠れた国会議員を記憶する。我々は夜が明けるまで眠らなかった市民と昨晩が《ハプニング》だと笑っていた彼らを記憶する。そして我々は去る3日の夜だけを記憶しないだろう。
歴史を学ぶ我々は決意する。忘れない。あなたたちを記録する。
我々の抵抗は歴史から出発する。我々は最後まで抵抗する。
ソウル大学校国史学科大学院生研究会は要求する。
- 一つ.内乱首魁ユン・ソンニョルは即刻退陣して法の審判を待て!
一つ.国会は軍事クーデターを共謀して憲政秩序を蹂躙した者たちを弾劾せよ!
一つ.ユン・ソンニョル政権は国家が進めた死と暴力に対して謝罪せよ!
ソウル大学校国史学科大学院研究会
2024年12月6日- 一つ.内乱首魁ユン・ソンニョルは即刻退陣して法の審判を待て!
繙蟠録 II 24年1-6月< 24年7-12月<