繙蟠録 II
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繙 蟠 録 II 2011年7-8月

2011/08/07 「ザンゲは食料に現れてくる時代が必ず来るんでねえかと」

言説の危機は,書店店頭の原発本の氾濫としてもあらわれている。出版界もまた報道関係と同様,資本と国家の“御用化”してきたことの自省から出発しなければ再生はない。

 しかし,旧いものの腐敗と崩壊は新しいものの胎動でもある。ここに紹介する加藤鉄 編著『聞き書き小泉金吾 われ一粒の籾なれど』東風舎出版は,巻末に「日本が過去の歴史において経験して来たように,悲劇が起こり,犠牲者が出てからでは遅いのです。歴史に三度目はありません」と記され,奥付に2007年3月30日第1刷発行2007年9月30日第2刷発行とある六ヶ所村からの証言である。以下に小泉さんの証言の一部を抜粋紹介する。

核燃なんてよ,寄ってたかって進めて,必ず懺悔として現れてくると。いずれはザンゲとして現れてくると。この辺じゃ“手面(てめん)が切れる”と言うのはその事だ。これも恐らく仏教の漢字から来た言葉だと思うけど,ウン。この辺の言葉ではな,手面が切れると。表ばかり良く見せてもなんで,裏見れば分かるという事だ。つまり,やっこい所のイイ事ばかり考えて,イイ話ばかりしてても,ホラ,心にそういう裏(やましさ)持ってやってれば,ザンゲとしてなんで,いずれ現れてくると。特に政治は政治なりのザンゲが有るから。又一般には一般のザンゲも有るしな。どこでも有るのだ。必ずこれ(核燃料基地)を強行してやるという事は,いずれはなザンゲとして現れてくる日が必ずくると。今は金欲しいと,早く安全協定結べと,早く銭よこせとな,他人殺しても自分が生きればイイとな。政治なんてそれをイイ事にしてやってみなさい,いずれはザンゲとして現れる。ザンゲという事はどこに現れてくるか。私はザンゲは必ず食料に現れてくるとな。国民全体にさ,ザンゲとして現れる時代が必ず来るんでねえかと。

 我々がいくら主張しても,それでも言うこと聞かないと。機動隊つけてな,廃棄物を穴掘ってぶち込んで,自分たちだけ生きればイイなんて,そんな事いつまでやったって,それで通せるかって。いずれはザンゲとして現れてくるよと。それ何かって言えば,濃縮。食料に濃縮されて現れてくるのだ。海のもの,陸のものな,日に三度は食わねえでいられねえんだから,東京に居ようが大阪に居ようが,どこに居ようがよ,食わねえでいられねえんだから。それを海汚したり大気汚したりしたらな,完全にザンゲとして現れてくると。いずれはな,そういう時代になってくると。それでも止(や)めねえこれでも止めねえてば,利権だけにとらわれてさ,やってるんでしょ。村の議員であろうが何であろうが。

 開発だ核燃だ,リゾート開発だゴルフだ,遊ぶレジャー旅行だ,今の世の中,皆そんなでしょ。考えられねえんだこれは。こういう同じ日本の中の生活にしてみても,物は粗末にしてよ,食い散らかし,新しい物どんどん捨ててよ,使い捨て,消費せよと,そうすればケイキが良くなったと。又ホレ金さえ有れば何でも出来ると。なったらな(どんな)生活も出来るとな,そういうのにたかり付いてやるとすればさ,いずれは,それはザンゲとして現れて来る,来ないはずねえでしょ。

『聞き書き小泉金吾 われ一粒の籾なれど』は,『在』出版会・あおもりによる通信販売で入手できる。DVD『田神有楽』付き2500円(送料込み・国内)。

 2001-2004年,いがらしみきおはweb sinkに怪作『Sink』を連載(竹書房から『Sink 1』2002年,『Sink 2』2005年が出た),「この世界は必ず人を不幸にする」「この世界を潰せ」と唱える“げんざ”を描き,「新すい世界がはずまるど」という老婆のセリフでしめくくっている。はたして,ザンゲは現れ,“げんざ”のいう新しい世界を,プレカリアートは獲得できるのだろうか。(M)

2011/07/12 【トークセッション】「文字」のあふれる時代に「ことば」の力を取り戻すために

主催者URL http://www.junkudo.co.jp/tenpo/evtalk.html#20110924ikebukuro
公式チラシpdf http://www.linelabo.com/han/20110924junku.pdf


【トークセッション】「文字」のあふれる時代に「ことば」の力を取り戻すために

対談 家辺勝文さん(『活字とアルファベット』)×互盛央さん(『フェルディナン・ド・ソシュール』『エスの系譜』)
企画進行 前田年昭

■2011年9月24日(土)19:00~(開場18:30),ジュンク堂書店池袋本店4F喫茶

何度目かの「電子出版ブーム」が演出され,最新の読書端末の動向や電子出版がらみの話題が各種のメディアを賑わせていますが,技術的課題や経済効果をめぐる議論の喧しさに比べて,ことばによる表現にまつわる本質的な問題についての省察の声はかき消されがちです。しかし,電子出版もことばを担うメディア(媒体)である以上,ことばをめぐる本質的な問いかけと切り離して,その出現の意味を理解することはできないのではないでしょうか。

 2010年の秋に刊行された『活字とアルファベット』(法政大学出版局)において,家辺勝文さんは文字とそれを実現する技術の歴史を参照しながら,インターネット時代の文字とテキストをめぐるソフトウェア技術の基本的なあり方について批判的に検討しています。現在の文字処理技術を具体化するソフトウェアの思想には,17世紀以来の普遍言語思想が流れ込んでいることを示唆し,また音声言語を対象とする現代言語学の諸概念が,十分な吟味もなく文字のあつかいに応用されていることの危うさを指摘しています。

 2009年に刊行された『フェルディナン・ド・ソシュール』(作品社)において,互盛央さんは19世紀から20世紀初頭にかけてのヨーロッパの政治史や思想史を背景に,近代における「言語学」がいかなる役割を負って形成されたかを跡づけ,現代言語学の祖とされるソシュール(1857-1913年)の言語をめぐる根底的な思考のありように迫っています。また,2010年に刊行された『エスの系譜』(講談社)では,広範な近代ヨーロッパ思想を渉猟しながら,言語が現れる根拠を「沈黙」という背景にまで遡って考察しています。

 いずれのアプローチも「ことば」と「文字」に関する知識の批判を含んでおり,本質的な問題を見失わないために「疑う」ことの勧めにもなっています。「ことば」と「文字」について,専門的な技術論に終始することなく,共通の問題として誰でも自由に幅広く語り合うためにはどのような切り口がふさわしいのでしょうか。言語学誕生の背景から,言語起源論や普遍言語論,表現の自由,電子書籍を含めた出版の将来まで,編集者としての経験も長い家辺さんと互さんのお二人が,原理的な考察と現場経験のエピソードを存分に織り交ぜながら,ざっくばらんに語り合います。

◆略歴紹介◆

家辺勝文(やべ まさふみ)
1950年東京生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。1979年から日仏会館でフランス語による学術出版物の編集に携わる。「日本語文書の組版指定交換形式 JIS X 4052:2000」および「日本語文書の組版方法 JIS X 4051:2004」の原案委員会委員。W3C Recommendation Ruby Annotation(2001)の策定に協力。著書に『デジタルテキストの技法』(ひつじ書房,1998),『活字とアルファベット』(法政大学出版局,2010),書評に「講義ノートは講義の録音なのか」(雑誌『悍』第3号,白順社,2009)などがある。個人サイト「ウェブノート http://www.ne.jp/asahi/yabe/masafumi/」を不定期に更新中。

互盛央(たがい もりお)
1972年東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。1996年より岩波書店に勤務。現在,雑誌『思想』編集長。著書に『フェルディナン・ド・ソシュール:〈言語学〉の孤独,「一般言語学」の夢』(作品社,2009年。第22回和辻哲郎文化賞,第27回渋沢・クローデル賞),『エスの系譜:沈黙の西洋思想史』(講談社,2010年)がある。

前田年昭(まえだ としあき)
1954年大阪生まれ。編集・校正者,神戸芸術工科大学教員。KDU組版講義 http://www.linelabo.com/KDU/

☆会場・・・4階喫茶にて。入場料1,000円(ドリンク付)
☆定員・・・40名
☆受付・・・1階サービスカウンターにて。お電話予約も承ります。
ジュンク堂書店 池袋本店 TEL. 03-5956-6111 FAX.03-5956-6100

2011/07/08 【シンポジウム】電子書籍の組版を考える 新たな組版ルールを求めて

私もパネリストのひとりとして参加する催しのご案内です(先着順申し込み受付中)。

主催者URL http://moji.gr.jp/gakkou/kouza/ebook-typo/
公式チラシpdf http://www.linelabo.com/han/0806chirashi.pdf


【シンポジウム】電子書籍の組版を考える 新たな組版ルールを求めて

開催日時 8月6日(土)14:30~17:00(14:00開場/途中休憩含む)

パネリスト(50音順)

高瀬拓史さん(イースト株式会社)
本間淳さん(フェリックス・スタイル)
前田年昭さん(編集・校正者)
村上真雄さん(アンテナハウス株式会社)
[司会]道広勇司(文字の学校)

定員 80名(先着順・要申し込み)

会場 ちよだプラットフォームスクウェア5F 会議室
(東京都千代田区神田錦町3‐21 東京メトロ竹橋駅より徒歩2分/JR神田駅より徒歩12分/東京メトロ神保町駅より徒歩7分) アクセス

受講料 2000円(当日会場にて支払い)

申し込み方法 現在先着順にて申し込み受付中です。お申し込みは下の申し込みフォームをご利用ください。 申込フォーム

講座の内容

本格的な電子書籍の時代を迎え,電子書籍の組版ルールをどうするのかという問いが投げかけられています。

印刷物の組版ルールは,読みやすくかつ見栄えが良くなるように工夫され,長年にわたって築き上げられてきました。電子書籍がその文化を吸収することはとても大切なことですが,一方で電子書籍には,読み手の側が自由にレイアウトを変更できたり*,紙よりも低解像度であったりといった印刷物とは異なる特性があります。

今求められていることは,印刷物と電子書籍はどこが似ていてどこが違うのかを明らかにし,そのうえで電子書籍の望ましい組版ルールを作っていくことではないでしょうか。

そこで今回は,さまざまな立場のパネリストに集まっていただき,電子書籍の組版ルールを考えるための議論を,パネルディスカッション形式で行います。

また,電子書籍の特性を生かした新しい表現方法についても考えます。

もちろん,一般参加者のみなさんとの議論の時間も設けます。

*ここでは,電子書籍の中でも,リフロー(reflow)型と呼ばれる動的レイアウトのもののみを扱います。

対象 ご興味のある方はどなたでも。

パネリスト紹介(50音順)

高瀬拓史(たかせ ひろし)
イースト株式会社EPUBエバンジェリスト(自称・笑)。EPUB 2.0仕様の日本語訳を手掛けたことを切っ掛けに電子出版の世界へ。日本電子出版協会「EPUB日本語要求仕様案」,総務省「電子出版環境整備事業ーEPUB日本語拡張仕様策定」プロジェクトに関わる。twitter:@lost_and_found

本間淳(ほんま じゅん)
Android向け縦組み表示アプリ「縦書きビューワ」(青空文庫形式テキスト対応、XHTML/EPUB2簡易対応)、Android向け国立国会図書館・近代デジタルライブラリー閲覧アプリ「近デジビューワ」開発者。フェリックス・スタイル取締役。twitter:@2SC1815J

前田年昭(まえだ としあき)
日雇い編集・校正者。電算写植組版ソフトの企画開発,辞書組版プロデューサーを経て,日本語の文字と組版を考える会世話人,日本規格協会電子文書処理システム標準化調査研究委員会WG2委員,句読点研究会世話人を歴任。2011年から神戸芸術工科大学で組版を教える。http://www.linelabo.com/KDU/

村上真雄(むらかみ しんゆう)
XML/HTML+XSL/CSS自動組版ソフトAntenna House Formatter開発者。アンテナハウス取締役(非常勤)。W3C会員としてXSLとCSS仕様に関わる。世界標準仕様(特にHTML+CSSとその応用のEPUB)でまともな日本語組版を可能にしたい。twitter:@MurakamiShinyu


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