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繙 蟠 録 2009年6月前半

2009/06/15 「一切ノ自然人」を「国民」にすりかえた奴は誰か

出入国管理・難民認定法改正案が国会審議中だ。法案は,現在市町村が行っている外国人登録制度を廃止,国が新たに在日外国人に在留カードを,特別永住者に証明書をそれぞれ発行し,一元管理するもの。09/05/22時事は,在日韓国・朝鮮人ら特別永住者に証明書の常時携帯を免除する方向で自民,公明,民主が大筋合意と報じた。これを一部韓国メディアは「在日同胞差別の象徴「身分証明証携帯」が廃止へ」として権哲賢駐日大使の「在日同胞人権改善の新しい時代が開かれる」との発言を報じた(09/05/23中央日報)。

 しかし,kscykscyさんはブログ「日朝国交「正常化」と植民地支配責任」の6月8日付「「多民族社会」日本の構想」で,この改定案が(常時携帯を「特別永住者」だけ免除しようとも,逆にそのことが明らかにしているように)実は「同化の論理」と「旧臣民の論理」もとづく“権利付与”でしかないと指摘している。kscykscyさんは,身分証の常時携帯が必要かどうかについての挙証責任を負っているのは日本政府の側なのに,実際には外国人の側が「常時携帯しないでいい理由」を証明する責任を負わされ,自らの「善良さ」を立証しなければならないという倒錯を批判しているが,その通りである(ぜひ全文読んで欲しい)。

 朝鮮戦争の真っ最中に実現した日本の「独立」とは,アメリカの世界支配の忠実なしもべとなることと引き替えになされた。戦争状態の法的な終結は中国や北朝鮮に対して遅れ,台湾や韓国とだけ先行した。植民地支配責任を不問にし,清算していないのである。「独立」も「戦後民主主義」もみな,この植民地支配無責任体制を覆い隠すイチジクの葉なのである。

 日本の左翼運動は「戦後民主主義」を讃美し,そこからの逸脱を右傾化として批判するが,そのような護憲論理から脱皮しなければ,権力と闘うことはできない。「戦後民主主義」批判こそ急務だと私は考えている。「一切ノ自然人ハ法律上平等ナリ」としたマッカーサー憲法草案が,なぜ「すべて国民は、法の下に平等」と「国民」にすり替えられ,帝国臣民としての忠誠度によって分断され,競争させられることとなったのか。(M)

2009/06/12 「反貧困」の心情

反貧困運動が問われているのは,ひがみやねたみという中産階級的上昇志向に対する批判と変革ではないだろうか。新自由主義はいま,官僚や公務員,大企業正社員へのひがみやねたみを駆り立てている。新自由主義はまた,かれら官僚や公務員,大企業正社員の既得権益へメスを入れよと喧伝している。あるがままの下層不安定貧民はこれに「拍手喝采」している。この心情とどう対峙し,闘う流動的不安定貧民として自己形成(階級的自己変革)するのか。

 現在の「反貧困」の主張の基本は,運動のリーダーのひとりである湯浅誠さんの著書『反貧困』の副題「「すべり台社会」からの脱出」が象徴している。今の日本は,うっかり足をすべらせたら,すぐさまどん底の生活にまで転げ落ちてしまう「すべり台社会」だという。こうした認識からは,派遣禁止を法制化しようという発想が出てくる。しかし,失業予備軍としての派遣労働者は資本主義の必然の産物であり,ずっと存在してきたのである(君たちには見えなかった/見ようとしなかっただけなのだ)。資本主義は,いつでもどこでも使い捨て可能な,基本労働を担う,流動的不安定貧民を絶対的に必要としている。それゆえ流動的不安定貧民は社会の基本階級なのである。この社会のどん底にどっこい生きている“どん底原住民”を,法規制などによって「なくす」ことなどできない相談である。

 「「すべり台社会」からの脱出」というコピーには,没落する階級の恐れやおののきが反映している。「健康保険も年金もなければどう生きていけるのか,未来がない」というわけだ。だから生きさせろと要求しているようなのだ。私は7年前にも書いた。【過去が現在を支配し,死者の無念が生者を縛る。いま一握りの“成り上がり”を除いて本土は沖縄化し,労働者は労務者化し,全国の野宿者は二万人四千人を超えた(厚労省、昨年九月調査)】()。どん底原住民はもともと健康保険も年金もないなかで,どっこい生きてきた。ないない尽くしで奪われた未来を取り戻すには,幾多のほにゃらら対策基本法を制定していただいてドレイ給付金を何万円何億円手にしてもつまらない。現在のすべてを革命する以外にない、と私は思う。

 いま求められている運動の質は何か。「転げ落ち」たどん底の人びとにこそ,あらゆる階級,階層の苦難を代表する質があり,抵抗と革命の力があるということである。没落や転落への恐怖を組織することによっていては,結局のところ,蜘蛛の糸にすがって他人を蹴落とす競争を強めこそすれ,競争そのものを廃止することはできない。(M)

※ 同日および翌日に本文をミニ改訂
09/06/15追記】 mixi上での森洋介さんとのやりとりを以下に別掲した。
2009/06/05 ごあんない 私の授業告知など
講義「アジア主義の意義と日中関係史」
6月6日(土曜日),専修大学で私が講義をします(総合科目授業)。外部聴講OKですし、ご都合のつく方はぜひお越しください。
演題:アジア主義の意義と日中関係史
 ※レジュメ以外にミニ冊子2種を配布します。
とき:6月6日(土)9:00-12:15(途中、休憩あり)
ところ:専修大学 神田キャンパス 302教室
 JR「水道橋」駅から徒歩7分、地下鉄「神保町」駅A2出口から2分 →地図
(M)
09/06/12追記】 講義の資料(レジュメと2つのパンフレット)をウェブにアップしました。ダウンロードしてご利用ください。
●前田年昭「アジア主義の意義と日中関係史」〔2009年6月6日、専修大学における講義〕
●資料1 萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
●資料2 李延禄「伊田助男」
http://www.linelabo.com/

《無期囚》磯江洋一さん 山谷6・9決起30年─―問われ続ける、山谷・監獄・貧困…
6月6日(土)午後2時~
日暮里区民事務所ひろば館(301洋室)(JR日暮里駅北口東側出口・徒歩10分)
《第1部》午後2時~「山谷─やられたらやりかえせ」上映(1時間50分)
《第2部》午後4時30分~
・発題 6・9闘争と寄せ場の闘い/磯江さんを支えて30年/6・9以降の山谷の闘い/無期囚の終身刑化について/獄中の処遇、医療について/<貧困>とはなにか/山谷からの報告 他
・磯江さんからのメッセージ
《第3部》討論
資料費/1000円
連絡先:090-1836-3430「山谷」制作上映委員会 →詳報
『谷川雁セレクション』刊行記念シンポジウム
〈谷川雁を読みなおす-いま甦る原点/工作者の思想〉
日時:6月6日(土)14:00~17:30(入場無料)
場所:青山学院大学(青山キャンパス)6号館・第4会議室
登壇者
 基調報告:鵜飼哲、酒井隆史
 本書解説者:佐藤泉、仲里効
 本書編者:岩崎稔、米谷匡史
 司会:戸邉秀明
主催:日本経済評論社
後援:河出書房新社
問い合わせ:日本経済評論社 TEL03-3230-1661 →詳報
2009/06/04 「人民公社」の歴史的意義を見直すとき

年賀状で私はこう書いた。【とこやみやね,この世は。……派遣切りや格差やゆわれてんねけど,劣等生・女・片輪もんはずーっと前から“非正規”なんやで。健保も労災もなんもあれへん,日本中が釜ヶ崎や山谷になってきてんな。人民公社あったらええのになぁ,食料衣服燃料教育葬式の五つを保証する「五保」や。中国はせっかく四半世紀続けた人民公社わやにして以来四半世紀,今じゃ日本とおんなしとこやみやもんね。……】。

 その中国では暴動や争議が日常化,注目すべきは毛沢東復権の動きである。

毛沢東主義で「改革・開放」を粉砕せよ! 極左の城「烏有之郷」の実態〔2009/03/27日刊ベリタ〕
毛沢東狂信の「カルト集団」である「烏有之郷」について〔2009/05/11石平(せきへい)のチャイナウォッチNo.043〕
悪夢?蘇る毛沢東の亡霊〔2009/04/27石平(せきへい)のチャイナウォッチNo.041〕
「08憲章」めぐりネット上で活発な論議 主流メディアは不掲載、主要サイトも削除〔2008/12/24日刊ベリタ〕
オバマ現象に活気づく中国網民(ネット市民)〔2008/11/14日経ビジネスオンライン〕
農地私有化では農民の苦境は無くならない:中国共産党第17期三中全会が開幕〔2008/10/11虹とモンスーン(アジア連帯講座)〕
農村社会の悲劇訴えた文学 中国で議論に〔2007/10/27MSN産経ニュース〕
中国政府は批判的言論の自由を守れ〔2006/03/13かけはし〕。

 ここで私が注目しているのは「烏有之郷」であるが,中国革命の核心ともいうべき人民公社の復権へ向かうことは歴史の必然である。食料,衣服,燃料,教育,葬式の五つを四半世紀にわたって実現した「五保」は,年金も健康保険もなく,明日の職も食も保証のない日本の不安定貧民にとっても希望だからである。(M)


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