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繙 蟠 録 2009年5月後半

2009/05/30 予定調和メガネをはずせば,事実ほど面白いものはない

前回「「蟹工船」異論!」で言いたかったことは別の側面から言えばこういうことだ。事実との出会い,衝突に際して二つの道がある。すなわち,出会った事実を「例外」だと処理して看過するのか,それとも自分自身がそれまで持っていた見方,考え方を再点検するのか,である。

 出会った事実を,自身が「常識」として持っていた見方,考え方によって説明できなければ,それは「常識」が間違っていたか,不十分だったことが裏付けられたということだ。「常識」が破綻したり,わからないことがでてきたりすることは,発展の契機たりうる。自然に対してでも,社会に対してでもそうである。研究者が研究者たる原点,ジャーナリストがジャーナリストたる初心がここにあると自戒をこめて私は考えている。

 佐々木俊尚さんが連載「ジャーナリストの視点 908 週刊誌記者の取材に心が汚れた」(09/05/26、CNET Japan)で,面白いことを書いている。元ライブドア社長・堀江貴文さんにインヴューをした(『サイゾー』6月号掲載)佐々木さん自身が受けた「大手週刊誌の電話取材」についてレポートしているのである。読んでいただければわかるが,予断にもとづく誘導尋問のみごとな典型である。

 ところで,この『サイゾー』であるが,雑誌のほうも面白いが,ネットの「日刊サイゾー」も面白い。『悍』も紙とネットとの関係はこんなふうになればいいなと思う。話がどんどん脱線してしまったが,日刊サイゾーも私の愛読ブログ,お気に入りのひとつなのである。(M)

日刊サイゾー
携帯版サイゾー(サイゾー裏チャンネル)(元『噂の真相』の神林広恵さんら強力ライター陣による社会,芸能,ジャニーズ情報満載で更新頻繁,月額315円は安い!)

2009/05/24 「蟹工船」異論!

昨年はじめからの『蟹工船』ブームが止まない(らしい)。漫画化され,ついには映画化までされるという。雨宮処凛さんは『蟹工船』を読んで今のフリーターと状況が似ていると思ったといい,「私たちは蟹工船に乗っている。知らない間に」と書いている(「雨宮処凛がゆく! 39」2008/01/16付)。が,私はそもそも小林多喜二の原作からしてリアリティを感じないし,ブームにはうさんくさいものを感じている。そんなにお手軽に「絶望」も「反撃」も語って欲しくないのである。

 現実はわからないことが多く,だからこそ面白い。そんなときに「哀れな派遣労働者,悲惨なフリーター」対「横暴な資本家」という,決まり切った物語を再生産することは,わからないことを調べて考えようとする努力を放棄させるための敵の陰謀としか思えない――といえば言い過ぎだろうか。決定的なことは,調べようとすること,考えようとすることである。敵が誰か。味方は誰か,どうやれば隊伍を組むことができるのか。

 一部左翼(修正主義者)は天皇ヒロヒトを描いたアレクサンドル・ソクーロフの映画『太陽』を評価しているらしい。そんなものは糞だ。描かれている民衆が,惚けて虚ろな,無力な,救済対象でしかない姿だからだ。一部左翼(修正主義者)の立場は日本左翼の悪しき選良主義であり,大衆蔑視である。神山征二郎の映画『郡上一揆』も同質,同罪だ。追いつめられた農民たちがついに起ち上がった……って,ナメてないか,下層大衆を。

 吉村昭の『破獄』は,四度の脱獄を成し遂げた男の実話を綿密に調査して描かれた名作である。主人公は,蟹工船に乗っていたころのことを懐古して言う,あのころが楽しかった,と。そうだ。一部左翼(修正主義者)が何と言おうと,ここに現実がある。ここにリアリティがある。気を付けなければならないのは,現実を映し出すフィクションもあれば,現実を覆い隠すノンフィクションやドキュメンタリーもあるということである。(M)

2009/05/22 「下地秋緒 作品展」へのお誘い

〔以下,転載紹介〕 父船本洲治は75年6月,釜ヶ崎愛隣センター爆破デッチ上げ爆取容疑で全国名手配され潜行中のオキナワ・コザゲート前にて東アジア反日武装戦線の闘いに呼応―焼身決起し,紅蓮の炎と化した。享年29。娘下地秋緒(しもじ・ときお)は,08年1月4日,スペインで病いに斃れる。享年32。

 父娘は,共に寄せ場から世界を観ながら,生を疾走して生き抜いた。
 秋緒は語る。
「私は自分と世界との間の,皮1枚へだてた所に心を置いて,常に外に自由を求めたい。内側は詩があるだけでいい。」

6月9日(火)~17日(水)
11時~19時 (最終日15時まで)
主催 全労済ホール/スペース・ゼロ
運営 TOKIO展in東京実行委員会
http://tokio.art-studio.cc/

9日17時より オープニングパーティー
13日17時より ウィークエンドパーティー
問い合せ先 tokiointokio2009@yahoo.co.jp
東京都渋谷区代々木2-12-10全労済会館B1
新宿駅南口より徒歩五分 03(5371)2688(期間中のみ)

先行開催
下地秋緒 横浜・寿町展
6月6日(土)~7日(日)10時~16時
寿生活館4階会議室(横浜市中区寿町3-12-2)
石川町駅北口より徒歩五分 tel/fax 045(641)5599

2009/05/20 啓蒙主義による簒奪に気をつけろ


5月16日,野戦之月海筆子主催「サークル野戦之月海筆子 2009. 5. 16」に招かれ,愉快な交流のひとときを過ごした。ありがたいことである。私は要旨,次のような発言をした。

【 サークル野戦之月にお招きいただき,ありがとうございます。

 私どもの『悍』第2号の芸術特集は実質的に野戦之月特集になりましたが,これは当初からの予定ではなく,編集委員の半数が辞めるという内部での対立と闘争の結果として,泥縄式に野戦之月特集になったものです。対立とは何だったのか,ひとつは啓蒙主義をめぐる対立だったのではないかと思います。啓蒙主義とは,知識を得ることが目覚めることであり,先に知った者ほど進んだ者だという考えです。知識を広めることによって世の中を変えようというわけです。時間的に知識を得たのが早いほど進歩的というヒエラルキーが作られます。

 表現には啓蒙主義という落とし穴があり,批評には簒奪という落とし穴があります。今回の『阿Q転生』劇評では褒め言葉が溢れており,友人としては嬉しい反面,眉に唾をつけてしまいます。簒奪されているのではないか,と。たとえば,ササムという役名について,サは朝鮮語で4,サムは朝鮮語で3,つまり4・3,1948年の済州島4・3事件の意味が込められているという知識がなければ芝居が理解できないのかといえばそうではありません。売血のミドリ十字の歴史を知らなければ,田村隆一の詩を知らなければ,宮下公園の最近の出来事を知らなければ,理解できない芝居なのか。否,決してそうではありません。知っている人は知っているなりに,知らない人は知らないなりに,感じ,考え,楽しみことができます。知らなければ先へ進めないという圧迫感はありません。

 批評が知識を解説して絶賛するとき,眉に唾を付けよとはこのことです。啓蒙のための解説をやる“有能な”知識人も観客のなかにいるでしょう。でも,劇評を書かず,言葉を奪われた多数の観客もいます。日常は,“能なし”“役立たず”と嘲られている流動的下層労働者,劣等生,フリーターもまた観客のなかにいます。私は友人といっしょにこの芝居を見に来たのですが,翌日からひと月近く,芝居のなかのセリフをまねて「後期高齢者は決起せなあかん」などと笑いあって仕事していました。『阿Q転生』を元気の源にしていました。ここに皆さんの芝居の,本当のすばらしさがあると思います。

 いまの世の中は,「あいうえおから資本論へ」という世の中です。あいうえおもわからない奴に資本論が読めるか,というわけです。しかし,資本論のなかに“あ”はないのか,資本論のなかに“い”はないのか,資本論のなかに“う”はないのか,資本論のなかに“え”はないのか,資本論のなかに“お”はないのか。あるではありませんか。私はこのことを30数年前,永山則夫の私設夜間中学という運動をしていた高野雅夫さんから教わりました。言葉を奪われ,“能なし”“役立たず”と蔑まれている流動的下層労働者,劣等生,フリーターが,生きた言葉を奪い返す闘いとして,ともに頑張りましょう。】(M)

※ 写真は『悍』第2号から(撮影・岸孝太さん+宮本泰成さん)

2009/05/19 対象に対する愛,表現


5月17日(日),大橋裕之『音楽と漫画』発売記念企画として,武蔵野公会堂第4会議室で「大橋裕之とBASARA BOOKS」(バサラブックス企画)があった。梅山景央さん(太田出版)の進行で大橋裕之さんと漫画家・渡辺ペコさんとのトーク,大橋裕之監督・原案の映画『A・Y・A・K・A』(30分,2008年)を上映。その後,漫画家・ルノアール兄弟左近洋一郎さんも加わって再びトーク。

 とても楽しい。会場を埋めた参加者は,映画の最中「うひゃうひゃ」「あるある」「ふふっ」とクスクス笑いが絶えない。ほとんど,友達同士で見るビデオの感じである。しかも,笑いとペーソスのまじりあった何とも言えない雰囲気である。いや,映画もそうだが,漫画がそうなのだ。不思議。(M)

YouTube「音楽と漫画」PV
ブログ「大橋裕之 まんが道」
※ 写真は,左=『音楽と漫画』表紙。右=もらったサイン。


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